コラム2024/03/05
高齢者の心臓疾患 心不全、虚血性心疾患、不整脈の治療とケア
高齢者の心疾患には心不全、虚血性心疾患、不整脈などが含まれますが、特に心不全は高齢者にとって重要な問題です。高齢者では心不全の再入院や死亡率が高く、治療には多職種の関与が不可欠です。慢性心不全患者に対しては至適薬物治療が行われ、75歳までの患者には若年者と同様の治療が推奨されていますが、75歳以上の高齢者では個々の状態を考慮した治療が行われます。特に左室収縮能の低下した心不全(HFrEF)の治療には、β遮断薬、ACE阻害薬、抗アルドステロン薬などの薬物治療が行われ、非薬物治療も検討されます。
一方、高齢者では左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)も多く見られますが、現時点では予後を改善する薬物は存在しません。このため、血圧や脈拍、体液量の管理が重要視されます。特に高齢者では心拍出量が脈拍数によって規定されるため、除脈に注意が必要です。さらに、HFpEFでは併存症の予後に関する影響が大きいため、併存症の積極的な管理が求められます。
心不全の急性増悪の治療においては、栄養や腎機能の管理が重要です。特に高齢者では、腎機能障害(CKD)を持つ患者に対して利尿薬を用いたうっ血の治療に注意が必要です。利尿薬による一過性のクレアチニン値の上昇(WRP:worsening renal function)は入院中の死亡率を増加させるリスクがありますので、この点にも留意が必要です。また、高齢者では過度の安静による長期臥床は筋力低下や廃用症候群を引き起こすことがあるため、早期の離床や退院を目指すことが重要です。
虚血性心疾患も高齢者にとって重要な疾患です。高齢者では無痛性心筋梗塞が多く見られ、非ST上昇型の重症疾患も多いため、心電図や血液検査による早期の診断が不可欠です。心房細動も高齢男性に多く見られ、特に非弁膜症性心房細動の場合は抗血栓治療が必要です。心房細動による心原性脳塞栓症や全身性の塞栓症のリスクは高く、そのリスクを下げるためにはワルファリンや新規抗凝固薬の使用が考慮されますが、高齢者では出血リスクも高まるため注意が必要です。
これらの疾患においては、高齢者特有の症状やリスクを考慮した適切な治療が求められます。高齢者の心疾患は単純なものではなく、心不全や虚血性心疾患、不整脈などが複合的に影響し合い、その治療には複数の要因が絡むため、総合的なケアが不可欠です。医師だけでなく、看護師や臨床検査技師、栄養士など多職種のチームが連携して治療を行うことが重要です。
高齢者の心疾患には個々の状態に応じたアプローチが求められ、そのためには病態を正しく理解し、適切な診断と治療を行うことが重要です。心不全や虚血性心疾患、不整脈などの治療は進化しており、早期の診断と適切な介入によって患者の予後を改善することが可能です。高齢者の心疾患に対する治療は個別化されたアプローチが不可欠であり、疾患の早期発見と適切な管理が重要です。