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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療のリアル映画「人生をしまう時間」

コラム2019/10/08

在宅医療のリアル映画「人生をしまう時間」

在宅医療のリアル映画「人生をしまう時間」

家族に看取られ穏やかに亡くなっていくことを目指す「在宅死」に焦点を当てたドキュメンタリー映画「人生をしまう時間」が公開されました。東大病院の名外科医・小堀氏が、最後に取り組む在宅の終末医療現場に密着。一人一人の人生の終わり、様々な難問と向き合い、医療に何ができるのかを問う。監督・撮影は、ディレクター、プロデューサーとして「NHKスペシャル」などを手掛けてきた下村幸子氏。2018年度日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞したBS1スペシャル「在宅死『死に際の医療』200日の記録」に新たなエピソードを追加、再編集をした劇場版となっています。(Movie Walkerより引用)

東大病院の名外科医がたどりついた最後の現場。それは「在宅」の終末医療。
超高齢化が進み、やがて多死時代を迎える日本。近年、国は医療費抑制のため終末期医療の場所を病院から自宅に移す政策をとってきた。同時に、家族に看取られ、穏やかに亡くなっていくことを目指す「在宅死」への関心が高まっている。しかし、家族との関係や経済力など事情はそれぞれ。「理想の最期」の前に、厳しい現実が立ちはだかることもある。都会の片隅で、「在宅死」と向き合うベテラン医師がいる。埼玉県新座市の「堀ノ内病院」に勤める小堀医師、80歳。森鴎外の孫で、東大病院の名外科医だった彼がたどりついた最後の現場が、在宅の終末期医療だった。患者と家族とともに様々な難問に向き合い、奔走する医師や看護師、ケアマネージャーたち。一人ひとりの人生の終わりに、医療に何ができるのか。映画は、地域の在宅医療に携わる人々の活動に密着し、命の現場を記録した。
(公式ホームページより引用) https://jinsei-toki.jp/intro.php

下村幸子氏が目の当たりにした1足す1が2にならない在宅医療のリアル

10/3(木)の“まいどなニュース”にて下村幸子氏のインタビューが取り上げられました。
-まずは制作の経緯から教えてください。
「以前、私が作った研修医のドキュメンタリー番組を見てくれていた先輩プロデューサーから『面白い先生がいるよ』と小堀先生の存在を教えてもらったのが最初です。小堀先生は元々、年間1000件の手術をこなすエリート外科医として命を救っていたのに、今は反対に『いかにうまく命を全うさせるか』という“死に際”の医療に携わっている。しかも年齢は80歳で、趣味はマラソンで、病院の自分の部屋は屋根裏にあって、そしてあの森?外の孫だと。すぐにアポを取って会いに行きました」
「その日のうちに往診について行かせてもらうことになったんですが、先生が回る先は、一見すごく閑静なお宅なのにドアを開けるとゴミ屋敷だったり、障害のあるお子さんが年老いたお父さんの面倒を見ていたりと、複雑な問題を抱えた現場ばかり。これは絶対に伝えたいと思い、すぐ企画書を出しました」
-きっかけは『面白い先生がいる』だったけど、実際に現場を見て撮りたいと思ったのですね。
「そうです。先生の向こうに、私の知らない医療現場のリアルが広がっていた。この先生の背中を借りて、在宅医療の現実を見つめていきたいと思いました」。
「NHKの番組って企画会議などで結構メッセージ性を問われるんですよ。私は今回、そういうことは決めないで、この現場には何かがきっとあるから、そこから汲み取ってもらいたいと思いました。編集長から『愚直に追いかけろ』『失敗してもいいからやれ』と言われ、走り始めました」
-取材したのは64家族にも上るそうですね。
「小堀先生と、もう1人、同じチームの堀越洋一先生にもついて行かせていただきました。2人の分を合わせて64です。もちろんこれは、2人が受け持っている患者さんの一部に過ぎません」
-老老介護の夫婦に良かれと思って介護サービスを紹介したら、介護を受けていた奥様の調子が悪くなったケースが印象的でした。
「70代後半のご主人が奥様の介護を全部1人で背負い込んでいたんですが、他人が見ると絶対どこかで限界が来てしまうとわかりますよね。なのに、介護保険を使ってサービスを入れたら、逆に元気がなくなっちゃった。2人の世界が、外部の介護が入ったことで壊れてしまったんですね」
「1足す1が2にならないのが介護。こうしたらいいっていう正解がないんですよ。それぞれ事情が違うから。全盲の女性が末期癌の父を世話している家も、知らない人からは無茶に思えるけれど、あの父娘にとってはあれがベストなんです」
「一方で、在宅でうまくいっていたのに、遠方の親戚から『病院に入れてやってくれ』と言われて、本人の望む最期が迎えられなくなったケースも。小堀先生は『我々の戦いは常に負け戦だ』と仰っていました」
-実際に現場を取材して感じた問題点は。
「お医者さんの数が圧倒的に足りていないことです。24時間態勢で、看取りまでやってくれる先生が少ない。在宅医はいるけど、いよいよ危なくなってきたら『病院に連絡を』というケースが多いそうです。でも今後はそういうニーズがさらに増えていくので、早く育成する必要があるのではないかと感じました」
-一口に「在宅死」と言っても、その中身は多様だということがよくわかる映画でした。
「決して在宅死を全肯定する映画ではありません。それよりも伝えたかったのは、私たちは元気なうちからきちんと死と向き合うべきだということです。自分はどんな最期のときを過ごしたいか、大切な人に早い段階で伝えてほしい。例えうまくいかなくても、周りの人が本人の思いを知っているのと知らないのとでは、大きく違いますから。この映画が死について考えたり、話したりするきっかけになればと願っています」
(10/3(木) まいどなニュースより引用)

今回は映画「人生をしまう時間」をご紹介をさせて頂きました。「在宅死」の難しさは関係者の方々も痛感している所かと思います。約7割の人が自宅で最期を迎えたいと思いながらも、実際の死亡場所の実に9割近くが医療機関である、というのが今の日本の現状です。「安心してご自宅で最期を迎えられる」サポートを医療介護従事者、行政、地域の方々と強化していくとともに、下村さんも述べられているように、「私たちは元気なうちからきちんと死と向き合うべきだ」ということも、価値観の萌芽として重要な働きかけの一つだと思います。このような映画や本、地域での勉強会や各種イベントなどを通じて、信頼できる方々と、話し合う契機にしてみてはいかがでしょうか。名古屋でも今池の“名古屋シネマテーク”にて公開されています。