コラム2019/09/26
スウェーデンから学ぶ在宅医療
スウェーデンから学ぶ在宅医療
皆様は海外の在宅医療がどのような水準にあるのかご存じでしょうか。これからの在宅医療をより良いのものとする為に、諸外国の在宅医療について知ることは、我が国の在宅医療の改善点を考える上で必要となってくることですね。今回は第一弾として、福祉国家として知られるスウェーデンの在宅医療をご紹介したいと思います。
スウェーデン医療の構造
スウェーデンの医療の最大の特徴は医療に関連するサービスについてはほとんどすべてが「公営」であり、病院で働く医師や看護師などのスタッフも全て公務員であるという点です。まずはここを念頭に、以降を読み進めて頂きたいと思います。スウェーデンは、全国を6つに分けた医療圏それぞれに大学病院が1つあり、日本でいう高度医療を行っています。国内をさらに細分化した20の県には、県立病院や民間病院があります。そしてそれらを支える形でプライマリケアが成り立っています。医療は県が、介護は市が担当しており、高齢者ケアは主に市の税収入および利用料金で運営されています。県が担当する医療の財源は課税所得の11%を占める県税で、その内の90%が医療に使われています。高齢者ケアの財源は市の課税所得のおよそ20.6%でその内のおよそ20%が費用にあてられています。さらに特徴的な点としては、スウェーデンでは他の北欧各国ほど明確な、地域を分担する医師としてのかかりつけ医が存在してないということがあります。しかしながら、スウェーデンでは患者がかかりつけ医を選択し、かかりつけ医は住んでいる地域によってほぼ決まるので、日本に比べればかかりつけ医が明確になっていると言えるでしょう。
スウェーデンの在宅医療
スウェーデンにおける在宅医療を理解するには、在宅医療やケアの全体像を理解しなければなりません。まず、スウェーデンの在宅医療の基盤として、地区診療所や市の看護師、准看護師、理学療法士などが在宅患者を訪問する訪問看護があります。ここには通常、医師は参加をしません。対象は一般の住宅で、医師はかかりつけ医として在宅医療を行うことはありますが、それほど頻繁に訪問をすることはありません。極力来院してもらう方向性となっています。一方、日本でいう所の介護保険の施設にあたる特別な住居での医療は、看護師は常駐をし、医師は嘱託医として週に1回ほど訪問をします。患者がそのような住居に入居した場合には、かかりつけ医はそのまま診療を継続しても良いが、嘱託医に任せることもできます。この辺りは日本でも同じことが言えますね。さらに在宅ケアは一般の住宅の場合には、ホームヘルプとして24時間対応で行われています。一方で、がんの患者で化学療法や緩和ケアが必要な患者、COPD、ALSなどの重度の患者になると、先述の地区診療所がケアにあたる場合もありますが、通常は病院が中心となり、地域ごとの24時間対応で医師も参加をします。以上のような点から、日本の在宅医療とはかなり違った点がみてとれますね。一つは、看護師の権限が非常に大きく、在宅医療の中心になっている点、もう一つは医師は重度な疾患を中心に関与しており、病院が中心になっている場合が多いという点です。
スウェーデンの在宅医療の問題点
在宅医療にケアの中心が移行しているという点に於いて、日本が目指すべき姿に重なる点の多いスウェーデンではありますが、実はまだまだ課題はあります。スウェーデン医療の問題点にはどのようなものがあるのでしょうか。
医師と介護の連携不足
「多職種連携」。これは日本の在宅量に於いても大きなキーワードとなっていますね。実はスウェーデンも例外ではありません。県の医師と市町村の訪問看護師との連携があまりできておらず、特に在宅でのリハビリへの対応がうまくできていません。また、訪問看護についても県から市町村への一元化が徹底されておらず、今後、医療・介護で一貫したサービスを提供することが求められています。
家族の介護負担の増加
こちらも先ほどの問題と同様に日本の在宅医療に於いても問題となっている点です。スウェーデンでは介護の必要性が比較的低い高齢者を家族が介護しなければならないケースが増えています。原因となっているのは市町村の財政面でのトラブルです。厳しい財政を背景に、施設への予算を減らす市町村が増えたことで、施設では対応しきれないケースが増え自宅でのホームヘルプサービスが中心となっています。しかしながら、一方でホームヘルプサービスについても介護の必要性が高い高齢者に集中する傾向がみられていることも原因となっています。
今回はスウェーデンの在宅医療についてご紹介をさせて頂きました。ご紹介させて頂いた内容以外にも「死の迎え方」に関しての国民の考え方の違いや、消費税率の違いなど、日本の在宅医療と比較をする上で考えなければならない点はいくつもあります。今回ご紹介をさせて頂いた内容が皆様が世界の在宅医療についてご興味を持って頂くきっかけとなれば幸いです。