コラム2023/05/01
アルツハイマー型認知症の軌道
アルツハイマー型認知症はもっとも代表的で最多の認知症です。認知症は自宅で生活している多くの高齢者に合併しており、その経過に影響を与えます。また、単独でも非常に長い経過の中で心身の状態を悪化させ最終的には死に至らしめる疾患です。
本日は、そんな非常に身近な疾患であるアルツハイマー型認知症の軌道ついておさらいをさせて頂こうと思います。
軽度(2~3年間)
近時記憶障害、時間・場所の見当識障害が徐々に目立つようになり、理解力や判断力の低下、遂行能力障害、性格変化なども現れてきます。それに伴い、状況変化に応じた適切な対応ができなくなり、仕事や様々な手続きなどの社会生活に支障をきたすようになっていきます。
多くの場合は、本人が「何かおかしい」と認識して自ら医療機関を受診するのではなく、発症してから周囲が「何かおかしい」と気付くまでに約1年、そこから医療機関に受診するまでに更に1年程度を要することが多いと言われています。
この時期には、本人が安全に生活できる環境の整備、権利の確保、心と体のケア、家族への病気に対する理解と協力の訴求、ケアマネジメントの確立、認知症カフェの紹介などが求められます。
中等度(3~4年間)
即時記憶障害といった記憶障害もみられるようになり、長期記憶障害にも及ぶようになります。見当識障害は人にも及ぶようになり、失認・失効、さらには失語もみられるようになります。日常的な家事ができなくなったり、清潔保持が困難となってくるのもこの時期です。こうなってくると、独居や老老、認認の世帯では生活が成り立たなくなってくるため、介護体制の大幅強化もしくは施設入所の検討などを余儀なくされます。
またBPSDのピークもこの時期のため、訪問診療の導入もこの時期に必要となることがあります。
この時期には本人が安心できるようななじみの環境を作ってあげたり、在宅生活を継続するなら訪問系サービスの導入なども必要となってきます。また合併症への対応も強化が必要となります。本人の生活能力や家族の協力体制を加味して慎重な見極めが求められる時期です。
重度(約3年)
長期記憶障害はさらに進行し、コミュニケーションも困難となってきます。失効も多岐に渡るようになり、ご飯が食べられない、失禁や転倒が多くなるなど身体症状がかなり目立つようになるため身の回りのこと全般に介助が必要となります。通院や通所も困難となるため、訪問診療の導入も必須の段階といえます。
この時期には生活全般に介護が必要となり、合併症の予防のための医療体制の整備が求められます。
末期
発語はほとんどみられなくなり、老衰過程の進行と相まって昼も夜もほとんど眠っているということが多くなります。また、座っていることもできなくなるため摂食障害はさらに進行していくことになります。肺炎をきたしやすい状態であり、肺炎もしくは老衰により死を迎えることになります。
この時期には、家族と最後の看取りをどこで行うのか、合併症がある場合にはどこまで治療を望まれるのかの意思決定支援が求められます。基本的に在宅医はこの時期になると緩和ケアに徹することになり、できるかぎり苦痛がないような最期を目指すことになります。
まとめ
アルツハイマー型認知症では本格的に意思決定が必要になる時期には本人はすでに状況の理解や意向の確認が困難となっていることがほとんどのため、末期に限らず、在宅医や訪問看護師といった医療者がその機会を提供することが非常に大切になってきます。本人の意向を正確に把握できていればその分医療介護の方向性も明確になるため、軌道を把握し本人が今どのフェーズにいるのかを意識することが大切です。