コラム2022/11/16
食事が摂れなくなった時
食事が摂れなくなる原因
食事が摂れない原因は多岐にわたります。
嚥下機能が原因とされることが多いですが、実際にはそれ以外の要素も多数存在します。
原因によって対策は異なります。
この場合、必要なエネルギーや栄養素をどのように補給するかを考える必要があります。
- 食欲がない(認知症・うつどの精神疾患、発熱・心不全・肝硬変・腎不全どの全身疾患)
- 口や歯の問題(虫歯や口内炎・舌炎など)
- 嚥下機能の問題(老衰、脳梗塞後遺症など)
- 消化管の病気(食道がん・胃潰瘍などによる通過障害や不快感)
食欲低下の原因が一時的なものかどうかを見極める
食事が摂れないときは、それが一時的なものなのか、回復に時間がかかるものなのかを判断する必要があります。
一時的な食欲低下などの場合、まずは、原因となっている病気の治療を行います。
病気の治療が終わるまで、栄養や水分が不足しないように注意が必要です。
水分が摂取できるようであれば、栄養補助食品を試してみます。
これらは処方箋で出すことができます。
水分も摂取できず、脱水症状があれば点滴で水分補給が必要になります。
口から安全に食事や水分が摂取できない場合、栄養療法を検討する必要があります。
栄養療法には、患者さんの胃腸から栄養を吸収させる
「経管栄養法」と、患者さんの血管内に高濃度の栄養剤を点滴する「中心静脈栄養法」があります。
患者さんの状態に応じて使い分けます。
消化吸収機能に問題なし→【経管栄養法】
食べ物を飲み込めない患者さんに、直接、胃の中に栄養をチューブで注入する治療法です。鼻からチューブを胃まで挿入する方法(経鼻経管栄養)と、胃に穴をあけてチューブを入れる方法(胃瘻)があります。
1日2〜3回、このチューブから栄養液を注入します。
消化吸収機能に問題あり-【中心静脈栄養法】
食道や胃、大腸などに癌があり、食べ物が通過しない患者さん、慢性膵炎、胃切除後、腸閉塞などの患者さんは、自分の胃腸を使って栄養を消化吸収することができません。
こういう患者さんには、高濃度の栄養液を直接血管内に点滴する方法があります。
点滴液は1日1回交換するのが普通です。
必要なエネルギーとタンパク質を意識的に摂取
適正体重を維持するために、1日に必要なエネルギーは以下のように計算します。
身長(m)×身長(m)×22×{15〜25}
身長150cmの患者さんの場合、寝たきりだと約800kcal、動ける方だと1000〜1200kcalくらいが1つの基準になります。
ただし、体重を維持するためには、エネルギーを摂取するだけでは不十分です。
ビタミンやミネラルなどももちろん大切ですが、身体のもとになるのはタンパク質です。
生きていくためにもたくさんのタンパク質やアミノ酸が必要になります。
これが必要量摂取できていないと、自分の身体の筋肉を分解して使うことになります。
高齢者の食事は偏りがちです。
タンパク質も意識して摂取するようにしましょう。
タンパク質の摂取量の目安は、体重(kg)×1g程度です。
体重50kgの方は、1日に50gのタンパク質の摂取を目指しましょう。
食事量が少ないと自分の身体を消化してしまう
1日に必要な摂取エネルギーを下回る状態が続くと、生きていくために必要なエネルギーや栄養素を確保するため、自分の身体を「消化」し始めます。
もともと加齢に伴い減少傾向にある皮下脂肪や筋肉量、内臓重量や骨量ですが、エネルギー不足状態が続くと、減少が加速します。
これは「老衰」そのものが加速する状態です。
体力や抵抗力も低下し、脱水・全身褒弱が進行し健康寿命が短縮します。
まとめ
食事が摂れないからといって、100%栄養治療を実施すべき、というものではありません。誰しも老褒や病気の進行に伴い、いずれ食事が摂れなくなる時がやってきます。
患者さんのなかには、これを寿命と考え、自然の経過を受け入れる、という考え方をお持ちの方もいらっしゃいます。
栄養療法を実施しても、状態の改善が見込めない場合には、患者さんのご意向に基づいて、治療方針を決定します。
一方で、患者さんやご家族にリハビリの意欲が強く、積極的な栄養療法でしっかり体力を回復すれば、再び自力で食事が摂れるようになる方もいらっしゃいます。
食事が摂れない状態が続く場合には、ご本人の意向を最優先に、主治医とともに栄養療法のメリット、デメリットを検討した上で、じっくりと考えることが大切です。