コラム2022/07/26
要介護者と誤嚥性肺炎について考える
「最期までお口から食事を摂らせてあげたい」
こんな願いを訴えるご家族は非常に多く、医療従事者も介護従事者もほとんどの方がこの想いに応えてあげたいと必死に考えをめぐらせていることでしょう。
一方で、常につきまとう誤嚥のリスク…。
在宅に関わる我々はこういった願いにどう向き合うべきなのか。
本日は「要介護者と誤嚥性肺炎」という目線で少し考えてみようと思います。
誤嚥性肺炎とは
肺炎は肺の炎症性疾患の総称で、その中でも口腔や咽頭内に常駐していた微生物を唾液や咽頭貯留物とともに誤嚥して発症する肺炎を誤嚥性肺炎と呼びます。
(※食事中に誤嚥した食べ物が肺炎を引き起こすわけではない。)
誤嚥性肺炎のリスク因子
誤嚥性肺炎のリスク因子となるものとしては、「高齢者」、「男性」、「慢性肺疾患」、「摂食・嚥下障害」、「糖尿病」、「重度認知症」、「口腔不衛生」、「低栄養」、「パーキンソン病」、「抗コリン薬の服用」、「制酸薬の服用」などがあります。
またサルコペニアの摂食・嚥下障害も忘れてはいけません。低栄養や低活動を引き起こしうる疾病はサルコペニアに関与する疾病でありますが、低栄養や低活動は誤嚥性肺炎の患者にも多くみられる症状であることから、サルコペニア高齢者は誤嚥性肺炎を発症するリスクが非常に高いと言えます。
誤嚥性肺炎と入院中のトラブル
要介護者が誤嚥性肺炎を生じ、病院に入院となった場合、入院中は抗菌薬投与による治療がなされます。
「炎症の値も下がり、肺炎が治癒したので退院です。」となれば問題はありませんが、必ずしもそういった経過をたどるとは限らないのが、難しいところです。
肺炎自体は回復傾向となっても、せん妄や転倒、廃用性の筋萎縮、褥瘡、誤嚥性肺炎の再発など、入院経過の中で、様々な問題が併発する可能性があります。
これらの問題は、いずれも軽んじることができない深刻な問題で、ひとたび発生してしまうとその後の生活に大きな影響を与えてしまうものです。
カギとなるのは「介護」、「多職種」連携
こうした問題を生じさせないためには、肺炎治療だけにとどまらないフォローが必要となってきます。
誤嚥性肺炎を生じた要介護者に必要となる治療やケアとしては、医療は肺炎治療のための抗菌薬投与や酸素投与、介護としては摂食・嚥下障害に応じた食形態の見直し、食事摂取時のシーティング、食事介助の技術指導、高次機能への刺激。
その他多職種としては、全身の筋力強化や関節拘縮の防止のためのリハビリ、摂食・嚥下のリハビリ、歯科治療や口腔ケア、低栄養状態の改善のための栄養指導などが考えられます。
このように、医療、介護、様々な医療専門職種が協働し、適切なフォローが提供されなければ、肺炎が一旦は治癒したとしても先にあげたような様々な問題が生じるリスクがあるのです。
やはり大切なのは予防
一旦、誤嚥性肺炎を発症してしまうと何度も入退院を繰り返してしまう傾向があるため在宅での予防をしっかりと考えなければなりません。
予防は口腔内の微生物の量をコントロールする口腔保清や、栄養ケアや活動量確保、嚥下体操などのサルコペニア対策、摂食嚥下に悪影響を与える薬剤を減薬し、良い影響を与える可能性のある薬剤への薬剤変更、適切な食形態の選択やシーティングなどを考える必要があります。
口腔ケア・栄養ケア・活動量の確保は治療と予防の両方に共通するため、常に取り組む必要があります。
まとめ
経口摂取を禁じられた口腔内の環境は経口摂取者と比べて劣悪であることもあり、安直に食事摂取を中断すれば良いというものでもありません。
かといって、在宅の性質上、指導を怠れば患者様やご家族様は好きなものを口に入れてしまうでしょう。
在宅医がきちんと旗振りをし、誤嚥のリスクマネジメントをしっかり行い、多職種としっかりと連携をしていくことが大切です。