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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

当院がパーキンソン病患者さんに介入した事例(訪問診療と外来診療の併診)

コラム症例紹介 在宅医療2022/07/07

当院がパーキンソン病患者さんに介入した事例(訪問診療と外来診療の併診)

パーキンソン病患者さんが訪問診療と外来診療の併診で得られるメリット

  • 医師とゆっくりと話ができる
  • 長く自宅でご家族と一緒に過ごすために、医療介護の退職連携を密にとることで、より深くサポート体制をとることができる
  • 在宅医師と病院医師が連携することで、薬の調整に対する不安を軽減できる
  • 24時間いつでも気軽に相談ができる

パーキンソン病患者さんに介入した事例(訪問診療と外来診療の併診)

<年齢・性別>

75歳 男性

<居住エリア>

名古屋市名東区

<家族構成>

本人、妻の二人暮らし

<医療保険・介護保険情報>

後期高齢者医療保険 1割負担

特定医療費受給者証(上限負担額 5,000円)

要介護 1

<主病>

パーキンソン病、レビー小体型認知症

<訪問診療開始の経緯>

パーキンソン病を発症後、病院の神経内科に定期通院にてフォロー。現在の重症度分類はYahrⅢ。通院の頻度は3か月に1度のペースで通院介助は妻が行なっている。

ある日、主介護者である妻から担当のケアマネージャーに相談があった。

「○○病院の先生はずっとお世話になっているから、一番夫の“病気のこと”をわかってくれているとは思うんだけど、他の患者さんもいるからお忙しいみたいで、なかなかゆっくりとお話ができなくて…。夫が元気だったときは、それでも良かったんだけど、初めの時と比べるとやっぱり生活もし辛い部分が出てきているし、最近は幻覚のようなものも見えるみたいで…。お薬の内容もずっと変わっていないしこのままで大丈夫なのかと不安で…。」

このような相談を妻から聞き取りしたケアマネより、当院の相談員に何とか改善ができないかと相談があった。

 

後日ケアマネ同行で当院の相談員が直接、妻と面談を行った。面談で、以下のような生活上の問題点がわかってきた。

・長い時間待って、せっかく受診してもゆっくりとお話ができないことが妻の不安を増長しており、受診自体がストレスとなってしまっている。

・認知症状が進行しており、本人の言動や行動に対してどのように対応していいのかわからないことで生活自体が辛くなっている。

・今後もなるべく長く自宅で一緒に過ごしたいと思っているが自信がなくなってきた

・薬の内容がずっと変わらないことは本当に大丈夫なのかと疑問を感じている

・気軽に相談ができる先がない

 

以上を踏まえた上で、当院相談員より現在の病院通院は継続したうえで訪問診療を入れる“併診”という形をとってみてはどうかとご提案した。

 

訪問診療を入れることで考えられる改善点を妻に以下のように説明した。

・訪問診療を入れることで外来受診比べて、ゆっくりと医師と話ができる時間をとれる

・本人の症状に対してどのように対応すべきか、長く自宅で一緒に過ごすためにどうしたらよいかなどの生活上の不安も多職種間で密に連係をとることでより深くサポート体制をとることができる

・薬の調整に対する不安も在宅医と病院医師との間で連携することで改善、もしくは納得ができる形で服用ができるようになる

・24時間いつでも気軽に相談ができる

 

相談員の説明を聞いたうえで、どこか受け入れができない様子の妻であったため、相談員が理由を聞くと、

「今の先生に怒られないかしら…。あと、先生に来てもらうなんてお金もかかるんでしょ?年金も沢山もらっている訳でもないし、きちんとお支払いできるか心配…。」

とのことであった。

相談員より、もちろん現在のかかりつけ医に相談は必要であるが、通院を辞める訳ではないことと、定期的に訪問医より報告をあげることで今のかかりつけ医も診察がしやすくなるということ、費用面も上限額5,000円内で医療保険の負担金は収まるため、現在と費用負担はほぼ変わらないことをご説明した。

 

妻もホッと安心したご様子で、それならば是非お願いしたいとのことであった。

 

病院のかかりつけ医への説明に不安を感じている様子であったため、その場で妻に病院へお電話をかけてもらい、説明が難しい部分は相談員に変わってもらい、MSWに先生のご意見を伺いたい旨をお伝えした。

 

後日、担当医師より回答があり、併診で問題ないとのことであったため当院介入の運びとなった。

 

介入より、半年が経過し、訪問診療に加えて訪問看護も導入(医療保険での介入)している。介入時に比べ、妻も笑顔が増えてきた。本人の状態も落ち着いてきている。生活上の問題は全て解決という訳にはいかない部分もあるが依然と比べて生活上の不安が明らかに軽減しているとの報告をケアマネージャーより受けている。

最後に

パーキンソン病患者は治療開始後5年ほどは投薬がよく効く。

5~10年経過すると治療薬の調整が必要となり、運動合併症も著明となってくる。

15年ほど経過するとADLは寝たきりとなり、約20年の経過で死亡する。

とある研究では、認知症を呈するまでに発症より6.2年、ジスキネジアを呈するまでに6.6年の経過年数が中央値となっていると報告されている。

これがパーキンソン病の自然歴である。

パーキンソン病自体は神経難病の中ではかなり治療選択肢の多い神経難病ではあるが、「治癒」をめざすことができない以上、廃用症候群などの二次的な運動機能障害の進行を予防し、症状を安定させるリハビリテーションが必要となる事や、自律神経障害、アパシー、うつ、認知機能障害、やせ、嚥下障害などの多様な問題に対応していく必要がある事に留意しなければならず、それらへの対応には、生活面、家族背景などを考慮した総合的なアプローチと多職種連携が必要不可欠であることを忘れてはならない。

また、パーキンソン病患者の死因の20.0~44.1%は肺炎であり、肺炎をきたさないよう、薬物療法やリハビリテーション、生活指導を行う必要があるし、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種も必要となる。

誤嚥性肺炎の予防を考える上で考慮が必要なことも多い。

パーキンソン病の摂食嚥下障害は自覚症状が出にくく無症状性誤嚥も多いため、定期的に機能評価をし、適切な食形態や食事姿勢などを考える必要がある。

口腔ケア、摂食・嚥下リハのために歯科衛生士・歯科医、リハスタッフと早期から連携を行う上で、訪問診療医の介入はそれらをスムーズに導入、機能していく上で優位に働く。

パーキンソン病におけるADLの低下や予後は、転倒による骨折や、誤嚥性肺炎などの感染症の合併などのイベントがあるかないかで変わってくるため、個人差が大きくなる。

合併症をいかに予防するか、廃用症候群も含めていかに運動能力を落とさないよう日常生活の中にリハビリテーションを取り入れるかがカギとなるため、生活空間に訪問する訪問診療医を早期から在宅チームに加えることはスピード感をもって変化に対応していく上で重要なポイントである。