コラム2019/06/27
覚えておきたい「DNR」 ~人口蘇生をしないという選択肢~
覚えておきたい「DNR」~人口蘇生をしないという選択肢~
DNRとは
「do not resuscitate」の略で、主治医や患者の親族また患者自身による人工蘇生をしない、させない、また望まないという意思表示のこと。(大辞林 第三版)
6/25の朝日新聞によれば、心肺停止になった際に、家族らが救急隊に蘇生処置を断るケースが相次いでいるといいます。一方で総務省消防庁の基準では、生命に危険があれば応急処置を行うと規定し、消防法では蘇生を中止するルールがないのが現状です。救急隊員は法律上、救命措置を行いながら、迅速に医療機関に搬送することが責務とされており、救命措置が使命と考える救急隊員は、ときに強く葛藤し、戸惑いの声があがっているといいます。
「救急隊は命を救うことが使命だが、心肺蘇生をやめてほしいということで板挟みになる」
「心肺蘇生を行ったら、家族から抗議を受けた」
「蘇生の拒否が患者本人の希望なのか、家族の希望なのかその場で判断できない」
隊員は「責務」と「患者や家族の希望」との間で、どうすべきか判断を迫られてしまうのです。こうした救急現場での混乱を防ぐためにどうすればよいのでしょうか。救急現場での混乱防止策の事例を2つご紹介いたします。
救急現場での混乱防止策 事例紹介 医療編
東京 世田谷にある在宅医療専門の「恵泉クリニック」では、容体が急変した時などにどんな治療を受けたいか、患者や家族の希望を細かく聞く取り組みをしています。
心肺が停止し、回復が見込めない時に、救命措置を望むかどうか。事前に患者と家族、医師が話し合っておき、書面に残しておくというものです。
Aさんは、「好きなことは全部やってきたので、思い残すことはない。苦しまず家族に迷惑をかけたくない」と話し、救命措置を望まないと書面に記しました。他方、Bさんの娘さんは、「もう少し一緒の時間を過ごしたいので、心肺停止になっても蘇生によって戻るのであればお願いしたい」と話し、できる限りの蘇生措置を希望していました。
太田院長は「医師が患者や家族の意思を確認することが欠かせない」とお話されています。
救急現場での混乱防止策 事例紹介 消防編
埼玉西部消防局では、現場で心肺蘇生の拒否を求められた場合の対応のしかたについて、独自の手順書を作成し、活用しています。
救急隊員が現場で蘇生を拒否された場合、家族などから「医師の指示書」を提示されれば、隊員は主治医にすぐに連絡し、指示を仰ぐことで蘇生や搬送を中止します。
また、事前の書面がない場合は、その場での「主治医の指示」と「家族の同意」があれば、蘇生や搬送を中止できるようにしています。具体的には、家族から主治医が誰かを聞き取り、その主治医に連絡して蘇生中止など処置の指示を受けます。そして、救急隊員がその場で家族から同意のサインをもらいます。救急隊員は独断で蘇生の中止などを判断できないため、必ず医師の指示が必要となります。家族などからの申し出だけではなく、医師との連携を強化することで、円滑な活動が成り立っているのです。
医療機関、消防局の事例をご紹介しましたが、こうした取り組みは、決して蘇生の中止を促すものではなく、あくまで、患者や家族の希望に沿った活動を行おうとするものです。
重要なのは、患者本人や家族の希望にできるだけ寄り添うことだと考えます。そのためには、患者さんと家族がよく話しあうことはもちろんですが、地域医療に携わる多職種が連携して、「きっかけ作り」や「場の提供」をしていくことも大切ではないでしょうか。
ちくさ病院 在宅医療勉強会の9月のテーマは「ACPについて~人生の最終段階を考える~」です。加藤医師より講義をさせていただきますので、皆様が患者・家族さんと話し合うときの参考にしていただければ幸いです。
※勉強会のご参加につきましては、別途FAXにてご案内いたします。