在宅医療の基礎知識2022/01/11
酸素療法とCO2ナルコーシス
在宅で療養されている患者様の中には在宅酸素療法を実施している患者様がいらっしゃいます。
喫煙歴を持つ患者様の高齢化と団塊の世代の高齢化が重なり呼吸疾患を持っている患者様は今後も 増加していくのではないかと予測されます。
今回は酸素療法で注意すべきCO2ナルコーシスについてご紹介します。
CO2ナルコーシスとは
CO2ナルコーシスは、酸素療法の合併症の1つで、呼吸の自動調節機構に異常が生じ、肺胞の換気が不十分となった場合に二酸化炭素(CO2)が体内に蓄積され、意識障害などの中枢神経症状が現れる病態を指します。
特に、Ⅱ型呼吸不全の患者さんに酸素療法を行う場合、CO2ナルコーシスに注意する必要があります。
CO2ナルコーシスの初期症状として、呼吸促迫や頻脈、発汗、頭痛などの症状が見られ、進行すると意識レベルの低下が起こり、傾眠から昏睡に至ります。
意識障害、高度の呼吸性アシドーシス、自発呼吸の減弱はCO2ナルコーシスの3主症状としてよく知られています。
CO2ナルコーシスが起こるメカニズム
CO2ナルコーシスが起こるメカニズムを理解する上では、まず呼吸中枢のメカニズムを理解しておく必要があります。
呼吸と血液ガスは密接な関係性を持っています。動脈血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)や酸素分圧(PaO2)、pHが変化するとその情報は呼吸中枢に伝えられ、呼吸は自動的に調節されます。
PaCO2が上昇し、PaO2が低下すれば、それを感知して換気を増大させます。
PaCO2が低下し、PaO2が増加した場合は、逆に換気を抑制し、PaCO2やPaO2を一定の状態に保とうとします。
健常者はPaO2の変化に対する呼吸中枢の感度が高く、PaO2よりもPaCO2の変動の方が呼吸中枢へ早く伝達されます。
しかし、慢性的な高二酸化炭素血症があると、呼吸中枢はPaCO2の上昇に反応しにくくなってしまい、主にPaO2の低下を感知して呼吸を促進させます。
では、このような呼吸中枢のメカニズムと特徴を念頭に置いた上で、対象患者様に酸素療法を行うとどのようなことがおこるでしょうか。
高密度の酸素を投与されると、当然、PaO2が上昇します。しかし、呼吸促進がされたわけではないため、PaCO2も高値のままです。
先述の通り、対象患者様はPaCO2の感度が弱く、主にPaO2を感知して呼吸の調整を行っているため、血中のO2が上昇したことで、呼吸を抑制します。
呼吸が抑制されることで、PaCO2がさらに上昇し、結果としてCO2ナルコーシスを発症するのです。
CO2ナルコーシスを防止するためには
では酸素療法は行わない方が良いのでしょうか。
いえ、決してそういう訳ではありません。CO2ナルコーシスを恐れて酸素投与をためらってしまうと呼吸不全の患者様は重度の低酸素血症をきたし、不整脈や心筋梗塞などの致命的な病態を引き起こすおそれがあります。
大切なのはCO2ナルコーシスを起こさないよう中止を払いながら酸素療法を行うことです。
既往歴の確認
まずは既往歴を確認しましょう。例えば普段から息切れのあるCOPDの増悪時ならCO2ナルコーシスを引き起こすリスクが高いです。また、普段は息切れのない気管支喘息の発作ならリスクは低いと考えらえます。
CO2ナルコーシスは慢性的な高二酸化炭素血症があると起こりやすい病態です。
SPO2を管理する
既往歴を確認して、ナルコーシスのリスクの高い患者様にはまずは24%といった低濃度設定から酸素投与を開始します。
それと同時にSPO2の評価を行い88%~92%に数値を保つよう吸入酸素濃度の設定・管理を行うことが大切です。
まとめ
酸素療法を実施する機会は多くなってきています。
正しく理解して、あれ?と思うことがあれば、医師に相談しましょう。