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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

年齢別の「良い睡眠」とは?Vol.1

コラム2021/03/18

年齢別の「良い睡眠」とは?Vol.1

年齢別の「良い睡眠」とは?Vol.1

中高年になるにつれ、「よく眠れない」とか「途中で目が覚める」といった睡眠に関する不満の声が多くなります。しかし、その理由がよく分からないまま、ほとんどの方は「トシのせい」とあきらめているようです。そこで、今回は、良い睡眠とはどういうものかをご紹介します。

睡眠にも「加齢変化」がある

じつは、中高年の睡眠には、興味深い傾向がみられます。一般に、睡眠時間は高齢になるほど短いと思われていますが、『国民健康・栄養調査』によると、成人の1日の平均睡眠時間は高齢になるほど長くなっています。
たとえば男性の場合、睡眠時間が6時間以上の人の割合は20歳代~40歳代は50%台ですが、50歳代は67%、60歳代は76%、70歳以上は82%と増えていきます。また女性の場合は、60歳代が67%、70歳以上が77%となっています。

睡眠に対して不満を感じている人も、高齢になるほど多くなるの?

たとえば、この1ヵ月間に眠れないことが「頻繁にあった」「ときどきあった」という人は、男性は50歳代が50%、60歳代が56%、70歳以上が59%。女性も50歳代が57%、60歳代が64%、70歳以上が63%で、いずれも若い世代よりかなり多くなっています。

「長時間寝ているのに不満も増える」というパラドックス(矛盾)

平均睡眠時間が長ければ、それだけ十分な睡眠がとれていると思われがちです。しかしながら、「長時間寝ているのに不満も増える」というパラドックス(矛盾)も生じています。
なぜ、こうした現象が起こるのでしょうか。それは、睡眠にも加齢による変化があるからです。その加齢変化とはどういうものなのかを知って、中高年らしい「良い睡眠」にアプローチしましょう。

加齢変化1 深い眠りの減少

睡眠の加齢変化には、2つの大きな特徴がみられます。
1つは、「深い眠りが少なくなる」ことです。
睡眠には、深い眠り(ノンレム睡眠)と浅い眠り(レム睡眠)があります。深い眠りは、睡眠の前半に多くみられ、脳の休息である「熟睡」に相当します。その熟睡時間が、中高年になると減少してきます。個人差はありますが、若い頃(20歳代、30歳代)とくらべると、50歳以上では半分から3分の1程度にまで減少します(自分の睡眠の傾向は、睡眠計でも知ることができます)。
その一方で、浅い眠りの時間は相対的に長くなります。浅い眠りは脳が活動している状態なので、ちょっとした刺激(音、光、温度など)で目が覚めます。そのため、中途覚醒や早朝覚醒が起こりやすくなります。
また、脳の活動は、夢を見ることにもつながります。リラックスできる楽しい夢ならいいのですが、中高年になると過去のつらいことや体調の不安などが夢になり、寝ながらストレスを感じることも少なくありません。
こうした深い眠りの減少と浅い眠りの増加が背景となり、「長時間寝ているのに、熟睡した感じがしない」という状態になりやすいのです。
なぜ深い眠りが減少するのか、その理由はまだよく分かっていません。深い眠りのときには成長ホルモンが多く分泌されますが、中高年になるとその必要がなくなるから、という説もあります。
しかし、深い眠りは、起きている時間の長さや昼間の活動量などに影響されやすいことも知られています。つまり、1日の総睡眠時間が長かったり、からだをあまり動かさない生活(運動不足)になるほど、深い眠りが得られないのです。

加齢変化2 体内時計の乱れ

睡眠の加齢変化の第2は、「体内時計の乱れ」です。
私たちのからだには、睡眠や血圧、体温などの1日のリズムを調整する体内時計(時計遺伝子)があることは、よく知られています。そのうちの睡眠のリズムには、体内時計と連動して、睡眠ホルモンといわれるメラトニンの分泌が大きな影響を与えています。メラトニンは、私たちが活動する朝から日中にかけては減少し、夜間に増えることで、からだを眠りに誘う働きをしています。
ところが中高年になるにつれ、夜間のメラトニンの分泌量が減少するため、それが体内時計の乱れとなり、睡眠障害を引き起こす原因になることが指摘されています。
さらに最近の研究から、体内時計の新しい側面がいろいろ分かってきています。体内時計は、中心となる親時計が脳の視交叉上核という部分にありますが、それ以外に子時計(末梢時計)が脳の海馬や肝臓、心臓などの内臓にも数多くあり、それらが一体となって全体の調整システムを形成しているのです。
また従来は、体内時計をリセットする要素として、光の影響(光同調性)が知られていました(※)。たとえば、太陽の光をしっかり浴びることで、体内時計が正しいリズムをつくるのです。
しかし、それだけでなく体内時計のシステムは、体温変化や食事時間などさまざまな要素とも関係していることが分かってきています。たとえば、中高年になるにつれ体温の日内変動(1日の変化)が少なくなりますが、その影響で時計遺伝子を活性化するタンパク質の働きが弱まることが報告されています。また、規則正しく食事をしないと、肝臓などの末梢時計がリセットされにくいことも判明しています。
一般に体内時計は、加齢によって前倒し状態(朝も夜も早くなる)になりやすいのですが、いま紹介した光の量、体温の変化、食事時間などの影響も受けやすく、それらが睡眠の加齢変化をもたらす要因となっています。
(※)人間の体内時計は、約24.5時間の周期をもっています。朝日などの光を浴びることで、1日24時間の周期にリセットされると考えられています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。うまく睡眠がとれていないなど、思い当たる節はありましたか?次回はその対策方法をご紹介致しますね。