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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

漢方薬の飲むのはタイミングが重要~タイプ別、適した漢方薬~

コラム2019/12/03

漢方薬の飲むのはタイミングが重要~タイプ別、適した漢方薬~

漢方薬の飲むのはタイミングが重要~タイプ別、適した漢方薬~

かぜをひいたときに、一度は「葛根湯」を飲まれたことがある方は、多いのではないでしょうか。「苦くて飲みづらい」という方に、最近、コーヒー味の「葛根湯クイック」がクラシエから新発売されました。福原愛さんがCMをされていましたね。
さて、今回は風邪の患者様が増えてくる季節に、漢方薬についてお話させていただきたいと思います。

漢方医学では、患者様の状態を8通り(八綱)に分類

(1)表・裏(表裏) (2)寒・熱(寒熱)(3)虚・実(虚実)のそれぞれに分け、2×2×2=8通りの病態に分類します(八綱 はっこう)。次にそれぞれの考え方を整理します。

表裏(ひょうり)

四つん這いになった状態で、背中から太陽の光が当たる体の部位、例えば、首や背中などを表(ひょう)と呼びます。反対に、太陽の光が当たらない部位(消化管)、例えば、胃や小腸などを裏(り)と呼びます。漢方では、かぜは体の表面から入ってきて、段々と裏へ侵入すると考えられています。

 寒熱(かんねつ)

風邪の引き初めに首や背中が寒い状態、いわゆる悪寒がする症状を、「体の表面が冷えている=表寒(ひょうかん)」と考えます。病気の勢いが強く、患者さんの病気を跳ね返す力が弱い場合、病気が体の中心部まで入ってきて、下痢が始まります。これは「体の中心部が冷えている=裏寒(りかん)」と考えます。

虚実(きょじつ)

漢方では、病氣を跳ね返す能力のことを虚実(きょじつ)と言います。病気を跳ね返す力は、脈を診て判断します。診察者の指の圧迫に負けずに患者さんの動脈の拍動が跳ね返してきたら、その患者さんは病気を跳ね返す力が強い、つまり実(じつ)であると考え、拍動を感じにくく、少し圧迫で拍動が消えてしまうようならば、その患者さんは虚(きょ)だと考えます。

分類別漢方薬の選び方

かぜの引き始めの八綱は、・表が冷えてしまうことが多く、患者さんがかぜを跳ね返す力に応じて、漢方薬を選ぶことになります。

例1 とても元氣な人のかぜの初期

  分類:表寒+実
処方漢方:麻黄湯(まおうとう)

麻黄湯は、体の表面を強烈に温め、汗をかかせて解熱させるという、とてもシンプルで攻撃的なお薬です。麻黄湯を内服するタイミングは、普段からとても元氣な人(脈の強い人)がかぜを引き、悪寒・発熱があり、まだ汗をかいていない時期です。麻黄湯には裏(消化管)を守る生薬は入っていません。副作用として、麻黄(主成分はエフェドリン)による胃腸障害が発生する可能性があるので、服薬期間はかぜの引き始めの数日間(3日程度)にとどめます。

例2 普通の人のかぜの初期

  分類:表寒+虚実中間
処方漢方:葛根湯(かっこんとう)

かぜの漢方といえば、「葛根湯」というイメージを多くの方が持っているのではないでしょうか。昔から、かぜの引き始めに用いられるスタンダードなお薬です。首筋や背筋でゾクゾクと悪寒がしたら葛根湯です。また、葛根湯は様々な痛みに効き、かぜを引くかもしれない無症状の人にも予防的に処方できるお薬といわれています。これからの季節、首筋や背筋にゾクッと寒氣がしてかぜの予感がしたら、かぜの発症を待つことなく、「とりあえず葛根湯」という方もおります。

例3 虚弱な人のかぜの初期

  分類:表寒+裏寒+虚
処方漢方:麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

体の表面から体の芯まで、全身が冷え切った人のお薬です。元々の新陳代謝が低めで、かぜを引いたとたんに全身が冷えてしまい寝込んでしまうような人が対象です。体の表面と体の中心部(裏)を強力に温めます。利水作用もあるため、全身の冷えが強く、水様性の鼻汁が出るタイプの花粉症にも処方されています。なお、消化管を守る生薬は入っていないため、胃腸障害の可能性があり、服薬期間は引き始めの数日間(3日程度)にとどめます。

例4 麻黄の飲めないとても虚弱な人のかぜの初期

  分類:表寒+虚
処方漢方:香蘇散(こうそさん)
シソの葉、ミカンの皮、ショウガ、甘草(甘味料)などの食品やその原料からできているため、紫蘇ベースのとても良い香りがします。麻黄が入っていない分、体を温める作用は弱いのですが、虚弱な人にも胃腸障害の心配なく処方できます。また、こころのストレスの薬でもあります。「かぜの引き始めに少しだけ熱っぽくなり、頭がポーッと詰まったような感じがする人」、「自分がかぜを引かないか心配で心配でしょうがない人」など、体を数日かけてゆっくり温めながら、頭やこころのモヤモヤを取ってあげる薬です。

まとめ

ゾクッと悪寒がした「瞬間」を見逃さない
・とても元気な人(表寒+実):麻黄湯(まおうとう)
・普通の人(表寒+虚実中間):葛根湯(かっこんとう)
・虚弱な人(表寒+裏寒+虚):麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
・とても虚弱な人(表寒+虚):香蘇散(こうそさん)

漢方をうまく効かせるためには、「ゾクッと悪寒がした瞬間」を見逃さないことが大切です。悪寒がした時にタイミングよく医療機関を受診できればよいですが、なかなか難しいですよね。自宅や職場に、今回紹介した「麻黄湯・葛根湯・麻黄附子細辛湯・香蘇散」の「かぜの引き始めセット」を、置き薬として備えてみてはいかがでしょうか。これらのお薬を内服後もかぜの諸症状がひどくなるようでしたら、肺炎などの合併症の心配がありますので、医療機関を受診してください。