コラム2020/12/09
期待感から一転、ケアマネ事業の20年度の収支差率はマイナス
期待感から一転、ケアマネ事業の20年度の収支差率はマイナス
20年度介護事業経営実態調査結果によれば、居宅介護支援における19年度決算の※収支差率はマイナス1.6%でした。
※収支差率とは
収入(介護報酬など)から支出(経費や借入利息など)を差し引いた金額(利益)が、収入全体の何割を占めるかを示す数字、一般的には利益率とも呼ばれます。マイナス1.6%であれば、月の月収が30万円の場合、4800円の赤字という意味です。
介護保険制度施行以来、継続してマイナスでしたが、19年度概況調査でマイナス0.1%、もう少しでプラスに転じるのではという期待感から一転、20年度はマイナスが膨らんだ結果となりました。
前回の報酬改定では、「居宅介護支援の基本単価はプラス」であったにもかかわらずこのような結果となった背景には、「単に基本単価をアップすれば経営が上向く」ということが否定される結果となりました。
損益分岐点は「利用者100人」?
調査年度によって多少ばらつきはあるものの、収支が赤字から黒字に変わる分岐点は、利用者数100人前後となっています。利用者数100人前後ということは、ケアマネジャーが3人程度いる事業所ということになります。ケアマネジャーが3人いれば、「特定事業所加算(III)」の算定も狙えます。経営的には、この「特定事業所加算(III)」がとても重要となります。
(例)利用者数が35人の事業所の場合
【売上】
35万円(単価1万円×利用者35人)
【経費】
給与………30万円
通信費………2万円
車両経費………2万円
諸経費………3万円
合 計………37万円
「売上35万円-経費37万円」で、2万円の赤字です。仮に家賃3万円を上乗せすると、合わせて5万円の赤字となり、収支差率はマイナス16%まで膨らみます。ところが、「特定事業所加算」を算定すると、単価は1万円から1万3000円となり、収入は45万5000円に増え、3万円の家賃を支払っても、「45万5000円-37万円」で8万5000円の利益が見込めます。
居宅介護支援事業所が、事業収支を黒字にするためには、「特定事業所加算」の算定することが、重要であることいえるかと思います。
介護事業所はスケールメリットが重要
一言でいってしまえば、介護のビジネスモデルは※「規模の利益」の追求といっても過言ではありません。
※「規模の利益」とは
利用者数が増大することで利用者1人あたりのサービスコストが低下し、固定費の減少
以外に、職員の熟練度や業務の分業化、効率化が向上すること
通信費や車両経費、パート職員の人件費などの「変動費」は、事業所の収入、利用者の人数などに応じて増える一方、「固定費」は、収入の増減に関係なく発生し、一定であるため、収入が増えれば増えるほど、手元に残る利益も大きくなります。つまり、介護事業所はスケールメリットを活かすことが重要となります。
まとめ
利用者数100人規模、すなわち「特定事業所加算」を算定することで、収支差率がプラスになる状況はキープし続けることができますが、現状として、第190回社会保障審議会の資料によれば、一人あたりの平均担当利用者数は25.2人です。すなわち、経営として極めて厳しい状況といえそうです。さらにいえば、利用者が20人未満の事業所は14.3%占めており、仮にこの状態が恒常化しているならば、事業として成立しないモデルでありながら、存続している状態です。つまり、居宅介護支援事業所単体で黒字は求めず、別の収入源に依存するビジネスモデルが一定の比率で存在しているのが現状であるならば、こうしたトレンドを理解した上で、居宅介護支援事業所の経営者は今後の経営方針を練る必要があるのではないでしょうか。