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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

コラム2020/10/12

緩和ケアとは~今後WEB勉強会でも取り上げていく予定です~

緩和ケアとは

以下のそれぞれの機関の定義を整理すると、「がん」という言葉はなく、病気に伴う痛みのためにあるものと定義されています。

WHO(世界保健機関)

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。」

特定非営利活動法人日本緩和医療学会

「緩和ケアとは、重い病を抱える患者やその家族一人一人の身体や心などの様々なつらさをやわらげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア」

厚生労働省緩和ケア推進検討会

「病気に伴う心と体の痛みを和らげること」

緩和ケアにおける「痛み」とは?

「痛み」は大きく以下の5つに分類されると言われています。全人的苦痛は身体的苦痛、社会的苦痛、精神的苦痛、スピリチュアルペインを含めたものとして捉えるとわかりやすくなるかと思います。痛みを含む難しい痛みに対する治療を効果的に行う場合には、特にトータルペインの考え方が重要です。

1.全人的苦痛(トータルペイン)
2.身体的苦痛
3.社会的苦痛
4.精神的苦痛
5.スピリチュアルペイン

緩和ケアはいつから始めるのか?
現在はがんに対する治療と並行して緩和ケアを行い、状況に応じて割合を変えていくことが一般的になってきました。以前は、がんに対する治療が終了するまで苦痛緩和治療は制限、治療終了後に緩和ケアを行うというものでした。現在の緩和ケアの目標は段階的になっています。
第一目標:夜間の睡眠の確保(痛みに妨げられずに夜は良眠できる状態)
第二目標:安静時の痛みの消失(日中に静かにしていると痛まないような状態)
第三目標:体動時の痛みの消失(歩いたり、体を動かしても痛くない状態)
最終目標:痛み消失の維持(痛みがなく、他の症状がなければ通常の社会生活可能な状態)

緩和ケアではどういう薬を使うの?

痛みの治療は薬物療法と非薬物療法の組み合わせが必要となりますが、鎮痛薬の使用が主役となります。WHO方式がん疼痛治療法における「鎮痛薬の使用法」は、治療にあたって守るべき「鎮痛薬使用の5原則」と、痛みの強さによる鎮痛薬の選択ならびに鎮痛薬の段階的な使用法を示した「三段階除痛ラダー」から成り立っています。なおWHO方式がん疼痛治療法とは、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの使用に加え、鎮痛補助薬*、副作用対策、心理社会的支援などを包括的に用いた鎮痛法であり、薬物に抵抗性の痛みには、神経ブロックなどの薬物以外の鎮痛法を三段階除痛ラダーの適用と並行して検討すべきであるとしています。

鎮痛補助薬とは

主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬、抗けいれん薬、NMDA受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択されます。

「鎮痛薬使用の5原則」とは

経口的に(by mouth)できる限り飲み薬で治療する
他人の手を借りずに患者さん自身で服用できることから、可能な限り飲み薬で治療します。飲み薬を飲むことができなくなった場合には、坐剤や注射剤、あるいは貼付剤を使います。

時刻を決めて規則正しく(by the clock)刻を決めて規則正しく使う

痛みが出たときに鎮痛薬を使用するという方法では、いつまで経っても痛みから解放されることはできません。鎮痛薬の効果が切れる1時間前に次回分を服用するという「時刻を決めた規則正しい服用」が大切です。他の薬と一緒に、服用時刻が日によってバラバラな食後に服用してはいけません。必ず毎日決められた時間に服用しましょう。

除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)痛みの強さに応じた効力の薬を使う

鎮痛薬の種類は病状の進み具合や末期か否かによって決めるものではありません。痛みの強さに応じて、どの鎮痛薬を使うのかを決めます。

患者ごとの個別的な量で(for the individual)痛みが消える量へと増やして使う

痛みが消えるまで、医療用麻薬の量を増やしていきます。アルコールに対して強い、弱い人がいるように、鎮痛のための医療用麻薬の十分量にも個人差があります。痛みが消える量が、その方の十分量なのです。これは「WHO方式がん疼痛治療法」の最も大切なことの一つです。
その上で細かい配慮を(with attention to detail)以上をふまえ、細かな点に配慮する
どの鎮痛薬にも少なからず副作用が発現します。でも心配しないで下さい。あらかじめ副作用を打ち消すためのお薬を併用します。また、患者さんの悩みもそれぞれ違いますので、悩んでいることを医師や看護師、薬剤師につたえましょう。患者さんの介護にあたるご家族の方が、患者さんの悩みを積極的に聞いてみることも大切です。

「三段階除痛ラダー」とは?

痛みの強さに応じて、どの鎮痛薬を使うのかを決めますが、この時に使われる階段図で、世界共通のものです。

緩和ケアに使われる薬って?

非オピオイド、弱オピオイド、強オピオイドと3つの分類があります。

非オピオイド
NSAIDs…抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用、抗血小板作用など様々な薬理作用を持ち、リウマチ、頭痛、歯痛、外傷、術後痛、発熱などに対し、日常の医療で頻繁に用いられている薬剤。例) ロキソニン、ボルタレンなど
アセトアミノフェン…鎮痛剤として多く頓服処方されている。ただ、SAIDsと異なり、抗炎症作用はほぼ有していない。例) カロナール
鎮痛補助薬…神経障害性疼痛をはじめとするオピオイド抵抗性の痛みに対して、非がん性神経障害性疼痛の試験成績をもとに、がんによる神経障害性疼痛に使用されることが多い。抗うつ薬、抗けいれん薬など様々である。例) リリカ、サインバルタ、リフレックスなど
オピオイド…一般的に、「オピオイド」は「麻薬性鎮痛薬」を指す用語ですが、“麻薬=オピオイド”というわけではない。強力な鎮痛薬としての合法的な医療用の用途がある。

弱オピオイド
軽度~中等度の強さの痛みに用いる 例) コデイン、トラマールなど

強オピオイド
中等度~高度の強さの痛みに用いる 例) モルヒネ、オキシコンチン
投与経路って何種類かあるの?
「鎮痛薬使用の5原則」では、経口での摂取が望ましいとありましたが、経口以外でも注射や貼付といった別の経路もあります。経口、貼付、注射とそれぞれ異なる経路から薬剤を使うことで、吸収の過程が変わるため薬の効きが良くなることもあり、先生方は多くの選択肢から、都度、最適解を導き出しています。こういった、投与経路を変えて薬を使うことや薬剤変更することをオピオイドローテーションと言います。

オピオイドローテーションとは

オピオイドの副作用により鎮痛効果を得るだけのオピオイドを投与できない時や、鎮痛効果が不十分な時に、投与中のオピオイドから他のオピオイドに変更したり、オピオイドの投与経路の変更をすることである(日本緩和医療学会)
オピオイドローテーションをする際はオピオイドの換算も重要になりますので経口で飲まれていた用量と注射の用量とが異なることもあります。

まとめ

WHO方式がん疼痛治療法は公表されてから30年以上経ちますが、まだまだ周知されていないことが多いように思えます。今後、在宅医療が広がりを見せるなかで、私たちも最期を安心して過ごしてもらえるよう医療介護従事者および患者ご家族様とのコミュニケーションを今まで以上に強化していきたいと思います。「緩和ケア」については、当院で定期的に行っているWEB勉強会で、現場の最前線で活躍されている方から講義をしていただく予定となっております。