コラム2020/10/06
経済合理性から考える今後の介護業界
経済合理性から考える今後の介護業界
以前、当院のメルマガにて、介護業界のイノベーションは法改正と同時並行で進める必要があるというお話をさせて頂きました。バックナンバーはこちら↓
https://w.bme.jp/bm/p/bn/htmlpreview.php?i=chikusa&no=all&m=301&h=true
そのような前提条件の中、介護業界の経営者や管理者はどのような視点で今後の変革と成長を考えていくべきなのでしょうか。
プレイヤーの顔ぶれが変わる介護セクター
プレイヤーの大半は中小事業者、業務は労働集約型、なかなか利益を上げづらい業界。これが今までの介護業界のイメージでした。しかし、近年では大分様子が変わってきています。介護事業者の倒産件数が2016年から4年連続で3桁で推移している一方、2018年に過去最高の件数を記録したM&Aは今年に入って再び活発化し、通年では2018年を上回るペースで推移しています。M&Aで規模の拡大を図る事業者もあれば、他業種の大手企業による買収も増えており、経営体力の脆弱な事業者が淘汰される代わりに他業種の大手が参入するなどプレイヤーの顔ぶれが変わってきています。
新型コロナの影響
医療・ヘルスケアの分野では新型コロナの感染拡大の影響を大きく受けたところもありました。では介護セクターはどうだったのでしょうか。
実は、コロナ関連の倒産は上半期(2020年1月~6月)で1件と限定的でした。医療では外出自粛による受診控えが多くの診療科で広がりましたが、介護では利用控えがショートステイやデイサービス等一部のサービスにとどまりました。もちろん、サービスの利用控えによって要介護度が重くなったケースがないか注視する必要はありますが、事業者の報酬を抑制するほどの事態にはならなかったようです。
むしろ、コロナ・ショックで価格が急落したREIT(不動産投資信託)のうち、介護施設などのヘルスケア施設に投資するREITの相場は比較的早く回復しています。「新しい生活様式」への変化が求められる中、着実に進展する高齢化への対応で不可欠なヘルスケア施設の需要は、感染拡大によって左右されないとの見方が強かったのではないでしょうか。
課題は効率性と収益性
5年後には団塊の世代が後期高齢者へと移行して、日本は経験したことのない超高齢化社会を迎えます。当然、介護サービスの利用者も増えることになり、介護保険による給付総額は2025年が15兆3000億円、2040年には最大で28兆7000億円に達すると予測されています。この巨大市場で利益を上げていく鍵を握るのは何でしょうか。
結論から言うと、今後の介護業界の視点は効果が裏付けされた介護サービスをいかに効率的に提供していくかという部分に注視していくことが重要となってくると予測されます。エビデンスに基づく科学的な介護とテクノロジーの活用。この二つを掛け合わせていかに化学変化を起こすかがキーポイントとなりそうです。
厚生労働省では、既存の介護保険総合データベースと通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ(VISIT)の2つのデータベースを稼働させていますが、これらを補完する形で介護のエビデンスを構築する新たなデータベース(CHASE)の試験運用を開始しました。
これにより、利用者の性別や身長、体重、食事の形態・摂取量、既往歴、服薬情報など30種類の「基本的な項目」に加え、「目的に応じた項目」「その他の項目」が収集されていきます。2021年度からは全国の事業所が情報の提供を求められるようになり、介護報酬改定でもデータ提出に関する加算の創設などインセンティブ措置が導入される見通しです。様々なデータが連結・分析されることで、エビデンスに基づく科学的な介護が評価されるようになっていくと考えられます。
まとめ
今回は、経済的な視点から介護業界についてお話をさせて頂きました。国の厳しい財政状況を踏まえると介護報酬の大幅な引き上げは考えにくく、介護事業者は「混合介護」などを考えながらビジネスの拡張を模索する必要があります。今年6月に開催された全世代型社会保障検討会議の第2次中間報告では、混合介護については「本年中にルールの明確化を図る」をされています。グレーだったルールが明確になれば、事業者は混合介護を提供しやすくなり、介護報酬以外の収入を増やして収益性を高めることが可能になります。保険外サービスを扱う事業者が増え、新しいサービスが誕生するきっかけになるかもしれません。